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特定非営利活動法人アートマネージメントセンター福岡

AMCF MAGAZINE

vol.
761

Level19プロデュース『証明』黒澤世莉 インタビュー

2025年12月26日(木)~27日(金)の2日間、塩原音楽・演劇練習場にて上演されるLevel19プロデュース『証明』。

今回は翻訳・演出の黒澤世莉さんにお話を伺いました!!

作品の話はもちろん、黒澤世莉さんが考える『演出』が大切にすべきこと、稽古場でのこだわり、などなど興味深いお話が盛りだくさんです。作品を観る前もしくは観た後ご覧いただくとより楽しめるかもしれません。

Level19プロデュース『証明』気になっていた方も、初めて知った方も、観に行く予定にされている方も、是非ご一読ください!

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黒澤世莉さんは2016年末まで活動されていた『時間堂』の頃から定期的に福岡お越しいただいていて、今回は5回目の福岡公演となります。時間堂が2016年に解散してからは『旅する演出家』としての活動を始められていますが、主にどういった活動をされているんでしょうか?

普段は東京はもちろん全国の色んな地域でサンフォード・マイズナーテクニックを使った俳優指導の活動をしてます。

 

マイズナーテクニックの講座は福岡でも開催されていますが、どういったものなんでしょうか?

ヨーロッパとかアメリカだとスタニスラフスキー・システムとかメソッド演技法とかっていう演技のやり方があるんですけど、ざっくりとそういうののその仲間みたいな感じですかね。スタ二フラフスキーとかメソッド演技法よりも、俳優同士の関係性に焦点があたっていて、すごくざっくり言うと”目の前の相手と自然にかかわるような演技ができる方法論“かな。

 

今回上演する『証明』は、俳優さんたちとのクリエイションを経て進めているいうことですが、演じる俳優と対話を重ねながら創り上げるというスタイルもこのマイズナーテクニックから生まれたものですか?

そうかもしれないですね。もともと自分がチームが対等に対話しながら創作するっていう創り方が好きなんですよね。マイズナーテクニックの僕の師匠が、そういう風にみんなで輪を作って対話しながら進めていくっていうやり方だったのでそのやり方に影響を受けて対話を大事にするスタイルっていうのは25年くらいずっとやっている感じです。

 

マイズナーテクニックの指導以外にも、作品の上演を数多く行われていますよね。今回上演いただく『証明』は海外戯曲ですが、普段から海外の戯曲を演出されることが多いんでしょうか?

そうですね。海外戯曲は好きだし、よく演出してます。自分の作品と既成のものと海外の戯曲とで大体同じくらいの数じゃないかな。

 

海外戯曲は観ている側からすると縁遠いモチーフの場合が多いと思いますが、関心をもってもらうように工夫していることはなにかありますか?

前提として、僕は演出するときに海外だからとか日本だからとか自分の作品だからとか人の作品だからってことはあんまり考えていないんですよね。やっている作業は全部一緒でその戯曲が内包している可能性をちゃんと減らさずに観客に届けるということと、作品の持っている魅力を減らさずに観客に届けるという2点。僕は演出(ディレクション)という作業は、今現代を生きている観客にこの上演がどういう風に受け取られたらいいのか、なんで僕たちはこの上演を行うのかということをしっかり定めることが大事だと思っています。なので、海外だからこういうことにするよっていうよりは、今この話を今生きている日本の福岡で生きている人たちに観てもらうっていう時に、どういう上演にするとより豊かな出会いの場が創れるのかなっていうことを意識して創っていますね。

 

今回『証明』という作品を再び上演しようと思った理由を教えてください。

『証明』は『すごい才能をもったキャサリンという女性が天才数学者であり精神を病んでしまったお父さんの介護をして過ごしている。そんな中で、 お父さんの教え子がすごいノートを発見して、これは数学的な予想を記した世紀の大発見だと語る。彼はこのノートをお父さんが書いたものだと断定するけれど、キャサリンは自分が書いたものだと言う・・・。』というお話です。僕が最初に『証明』を演出したのは16年くらい前。当時はこの作品を、すごく才能がある女性が、才能があるということを信じてもらえない“天才の悲劇”という形で捉えていました。改めて別の方がこの作品を上演されているのを観る機会があり、これはキャサリン個人が大変だとかわかってもらえなくて辛い、という個人の問題ではなく、構造の問題であると捉え直しました。キャサリンは大学を辞めて全てを投げうってお父さんの介護をしなければならなくなり、20代のすごく大事な時期を棒に振っているし、お姉さんのクレアは例えるならば“福岡から東京に出て狭いワンルームに住みながら、福岡のすごくボロボロの実家のお金をローンで払っている”みたいなことをがんばってやっている。自分の肉親が精神を病んでしまって、そこに20代の娘しか残っていないという状況だったら、なぜ  社会がその家族を支えられなかったのか? ということがすごくひっかかって、作品を通して現代の観客と考えたいなと思ったのが上演したいと思った理由です。

 

過去に自分が演出をした作品の新たな解釈と出会ったんですね。

そうですね。戯曲をよく知っているからこそまた捉え直すことができたというのがあると思います。戯曲を現代の観客とどう出会わせるかという部分で、今回は『現代』『ヤングケアラー』というのが一つのキーワードになっているんです。『ヤングケアラー』という言葉は16年前にはあまり日本では言われていなかったんですよね。その考え方自体が僕にもなかった。でも、いつの時代にもそういう人は必ずいて、現代の目線から観たらキャサリンというのはヤングケアラーだという風に考えられる。戯曲自体は変わらなくても、社会が変わっていく、時代が変わっていくということがある。今の時代に上演するのであれば、どういう捉え直し方ができて、どういう作品の共有の仕方ができるかな? というのは常に考えています。

 

そうやって時代が変わることで感覚や状況、私たちを取り巻くものが変化することによって作品のみせ方も変化する。戯曲自体は変わらないけど時代を経て作品も変化するというのは、面白いですね。このように同じ作品の上演を重ねるということはよくされますか?

同じ作品を繰り返し上演するっていうのは比較的やっていますね。小劇場の現場って、どんどん新作を上演していかないと中々お客さんを呼べない、みたいなところがあるんじゃないかと思うんです。でも新作を創り続けるって大変な労力じゃないですか。それも悪くはないけど、それだけだと疲弊しちゃうってこともある。一つの作品をじっくり育てていくことで、見えてきたり深まっていくことが当然あるし、そうやって深まっていくものを、観客の皆さんも一緒に伴走して観てくれるような環境が作れたらいいですよね。お客さんも豊かなものが観られるようになるし、小劇場の劇団も疲弊しないんじゃないかなと思っています。バランスよく再演を上演できる環境になっていったらいいですよね。

 

確かにそうですね。そういう演劇の楽しみ方っていうのは、観る側としても持っておいたらいいなと思いました。稽古場での創作についてのお話もお聞きしたいです。

子育て中だったり、住んでいる地域がばらばらだったりするので、オンラインをうまく使って進めています。進め方自体はオンラインも対面もそんなに違わなくて、最初にみんなで集まったら、今日の調子をみんなで共有して。例えば“今日は身体は元気だけど心はイマイチだよー”とか、“心は元気だけど身体はイマイチだよー”とか、“どっちも元気だよー”とか。“どっちも終わってるよー”みたいなことをみんなでシェアして、それから、今日やりたいこととか今話したいことを色々と話したりしています。そういうのが特になかったらシーンやりましょうかという風になって、1回シーンをやったら、その後にやってみてどうだった?という感じでみんなで振り返っていく。話を聞いてそれに対して僕が応答していく、という感じですね。色々やって終わったら最後にみんなでしゃべって解散、そんな進め方をしています。

 

対話がメインの稽古場ですね。動きをつける、みたいなことは直前に揃った状態でされるんでしょうか?

基本的に段取りとかブロッキングとかっていう動きのことは俳優任せですね。別に毎回違っていてもいい。最終的には照明とか小道具の都合とかがあるのでこうしようかっていうのは決めますし、困っていたらこうしたらどう? ていうのは伝えます。でも俳優が決めたのがよければいいねぇってそのままやる。

演出の大きい仕事は、現代の観客とどういう風に関わるかだ、みたいなことを話しましたけど、僕はこの方向に進みたいみたいなことを創作の最初に提示はするんですよね。観客とどう出会いたいかみたいなこととか、例えば今回であれば“ヤングケアラーとしてなんでキャサリンやクレアは父親の介護をしなくちゃいけないのか、もっと社会にできることはあるはずなのになんでそうならなかったのか、ということを考えたんだよね”という話をしたり。あと、今回の上演を観た方たちの間で話題になっている部分でもありますが、“キャサリンはヤンキーにしたいんだよね”みたいなこととか(笑)。マイズナーテクニックは関係の演劇って言いましたけど、台詞をどう表現するかということはちょっと後回しにして、目の前の相手とパワフルにやり取りをする、目が離せないものを創るっていうことが前提になるから、行先を示して場を整えたら、後の作業は基本的には俳優にゆだねた方が上手くいく。具体的にどうするのかは自分たちで考えなよ、という方が俳優も楽しいだろうし、結果豊かなものを観客と共有できるんじゃないかなって思っています。

ちょうど1ヶ月ほど前の新潟公演では俳優が一人急病で降板しないといけなくなり、急遽その方を除く3人で作品を上演しました。4人出演の作品を3人で上演するということができたのは、それまでの積み上げがあったから。3人版を終えた後の俳優が「3人だったけど、4人いた」と語っていたのが印象に残っています。自分たちで考えて自分たちで“今その場にある起きていること”をしっかりと活かして目の前の相手とやり取りするということをずーっとやってきたから、色んな条件が変わっても軸の分はぶれずに上演できましたね。

 

作品に強度が備わっているんですね。少々のことではぶれない。

そうですね。戯曲も強いし、俳優も強い。土台がしっかりしているという自負はあるけれど、難しい言い方をするよりはしっかり“遊べる”という感じかな。まずは、言葉は念仏みたいに覚えちゃって、目の前の相手と生まれたものでやり取りする。そうすると、例えば戯曲を読解すると“怒ってる”とか“相手のことが好き”みたいなことが、全然そうなってないみたいな、戯曲からは離れたやり取りが生まれる。テキストから自由になって俳優がその場に存在できるということになる。それができるようになってから、じゃあ戯曲に沿うにはどうしようかということを考えていく。そういうプロセスを経てるから、色んな変化にも柔軟に対応できるようになるんです。例えば本番中にいろんなトラブルが起きても動じずに、今そこにあるものでやるか、みたいな感じでやれるようになってくる。でもそれは真面目に頑張るぞ!っていう感じじゃなくて遊び倒したところから出てきた結果なんだと思います。今日何する~みたいな(笑)

 

そういう強度のある俳優さんが増えるともっと演劇は楽しくなる気がしますね。新潟での本番を終えて、福岡公演へむけた意気込みなど教えてください。

新潟公演は、新潟のお客様にすごく助けていただいて温かく終われました。初日に4人で行った上演はいい舞台になりましたし、2日目の3人バージョンも温かく受け取って頂けて、千秋楽はダブルコールもいただきました。自分としても、とてもいい上演だったんじゃないかなと思っています。やたらガンつけてくるヤンキー出てきたな、とか(笑)、一見数学の難しい話かなと思ったけど全然そんなことなかったよ~、というような感想も沢山いただきました。上演時間2時間20分って長く感じられると思うんですけど、お話としてはコメディ要素もたっぷり含んだ作品になっているので、気楽に観ていただいて、あっという間に終わる感じだと思います。福岡のヤンキーがいろいろ困るみたいな話を観る気持ちで来ていただけたらいいのかな(笑)

あと、新潟公演では松井里美さんという新潟の俳優が演じていた“お姉ちゃん役のクレアという人物”を福岡公演では富田文子さんが演じるんですが、松井さんと富田さんは全然役作りが違うんです。解釈も違うし全く別人なので、新潟で上演された『証明』とこれから上演する『証明』は全然違う仕上がりになるんじゃないかなと思います。

初めて観る方はもちろん、新潟公演を観た方も楽しめますね。

いよいよ今週末上演のLevel19プロデュース『証明』、楽しみにしています!

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Level19プロデュース『証明』

ピュリッツァー賞・トニー賞受賞の傑作戯曲『証明』(原題:Proof)。
精神を病んでいた天才数学者が、100冊以上のノートを残して死んだ。
その才能を受け継ぎながら、親の看護に日々を費やした娘のキャサリン。
ノートはゴミの山なのか?
それとも世紀の大発見なのか?
書いたのは誰なのか?
キャサリンは「証明」を武器に「見えない壁」をぶち破ろうともがく。
https://note.com/level19llc
▶2025年12月26日(金)~12月27日(土)

12月26日(金)19:00
12月27日(土)12:00/16:00

会場▶ 塩原音楽・演劇練習場 大練習室(https://minami-tk.jp/)

料金▼

一般:3,000円 / U-25:2,500円
高校生以下:1,000円

チケット取扱▼

ローソンチケット(Lコード:84051)
予約フォーム:https://ticket.corich.jp/apply/396531/
お問合せ▶ 合同会社Level19 info@level19.net

 

 

Level19プロデュース『証明』チラシ

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Level19プロデュース

旅する演出家・黒澤世莉のマネジメントをする「輪をつくり、橋をかける」合同会社Level19が、黒澤の演出する傑作戯曲を、全国各地の協力団体と共に上演するプロデュース公演。 https://note.com/level19llc/n/ncb2b70adeb13