VIEW MORE

特定非営利活動法人アートマネージメントセンター福岡

AMCF MAGAZINE

vol.
757

◆キビる2026 紹介コラム  百瀬 友秀 さん▷Mr.daydreamer

コラム

今回で10回目を迎える”キビるフェス2026”。

今年は2025年12月から2026年1月にかけて今年は総勢6つの団体の作品をご覧いただけます。

彩り豊かな6団体のことを是非もっといろんな方に知ってもらいたい!!ということでスタートしました\\キビるフェス2026 紹介コラム//!!

福岡にゆかりのあるアノ人やコノ人に、団体のあれこれ語って頂きました。

知らない人はもちろん知ってるよ~という方も!新たな魅力を発掘できるかも。

今回紹介コラムを書いていただいたのは、、、、

MMST代表。舞台演出家として舞台のみならず様々な現場で作品を発表し続けている百瀬友秀さん。

普段の百瀬さんはあたりが柔らかく穏やかなイメージのある方ですが、作品創作においてはとてもストイックな印象があります。「芸術家」という言葉がしっくりくる、そんな方だなと思っています。

そんな百瀬さんにご紹介いただく団体は『Mr.daydreamer』。

「ハイナー・ミュラー」という劇作家について、「ハムレットマシーン」について、今回このテキストに挑む演出家上野隆樹さんについて、Mr.daydreamerへの期待も込めた紹介文となっています。

上演、とっても気になります。是非ご一読ください~。

早速どうぞ!!

ーーーーーーーーーーーーーー

「物事を壊すこと」

「皮膚と肉を剥ぎ取り骸骨にまで還元すること」

 

 ハイナー・ミュラーは自身の関心がこの2つにあると述べています。前衛と言われる人々特有の誇張に聞こえなくもないですが、東西ドイツ分裂という特殊な時代を生きた芸術家の「命をかけた粋がり」と捉えるならば早々馬鹿にしたものではありません。メイエルホリドがスターリンによって銃殺されたように、作品の主張によって上演禁止になるような緊迫した時代に「破壊」を掲げて創作を続けることは相当な覚悟が必要だったかと思います。また、ミュラーが書いたテキスト群はあらゆる引用から成り立ち、歴史は勿論、自身のテキストからの抜粋も多いため容易に解読できない難解なものばかりです。これもインテリ特有の知識の戯れと取れなくもないですが、張り巡らされた知の塊の中に何故か「人間」を感じてしまうような不思議な感覚を生むテキストでもあります。何故ミュラーは「破壊」を求め、このような複雑なテキストを書かねばならなかったのでしょうか。そこには「娯楽としての演劇」という物差しでは到底測れないものがあるように思います。

 今回、Mr.daydreamerが上演する「ハムレット・マシーン」は今なお世界中で上演が試みられているミュラーの代表作です。私もいくつか観劇しましたが、残念ながら解釈に傾倒するあまり、研究者の論文のようになってしまっているものが多かったように思います。だからと言って解釈が必要ないというわけではなく、むしろ、解釈の徹底によりそれ自体が破壊されてしまうようなものを求めない限りミュラーのテキストは駆動しないようにも思うのです。いずれにせよ、ベケットに並ぶ演劇史の宿題とも言える作品に現代の若者が挑むということは、それだけで期待を抱かないわけにはいきません。まずはミュラーという演劇人をどのような作家だと捉えているのか、そしてそれを何故現代において上演するのか。曖昧にせず、正面から堂々と対自して欲しいと思います。

 私が演出家である上野隆樹君の作品を初めて観たのは今から5年ほど前。20年来の付き合いである大阪のプロデューサーが開催している1人芝居企画になります。私は福岡公演の照明スタッフとして参加していました。出不精で交友関係も少なく、演劇人(とくに若い演劇人)と触れ合う機会がほとんどない私にとって、若い演劇人が何に拘っているのか、そして、どのように演劇というものを考えているのか、を直接知ることができる貴重な機会です。コロナ下で行われた2020年のフェスに、若かりしMr.daydreamerが参加しておりました。上野君は照明や音響、俳優の動きの細部にまで拘り、演出家として的確に指示も出しておりましたので「若いのにしっかりしているな」という印象を持ちました。しかし、同時に「この拘りに実態はあるのだろうか」という疑念を抱いたことを覚えています。言いかえれば「何に拘っているのか」がよく解らなかった。その後、作品は何本か拝見しておりますが、三股町で現地作家が書いたテキストを上演したもの、と今年8月に大阪で上演した田中千禾夫の「雲の涯」以外は、同じような感想を持っています。逆にその2本については、「作品」として観ることができた。恐らく、作家やテキストとの格闘が切れずに最期まで「対話」が続いたのではないかと思います。意気込んだ自身の劇団公演では、無理に「解釈」や「拘り」を捏造しているきらいがある。俳優それぞれが培ってきた力が作品として活かしきれていないという印象が拭えません。そこはプロデュース公演と同様、作家やテキストと向き合い、背伸びをせずその場で右往左往する他ないのだと思います。所属俳優も増え、それぞれに確かな力量が付いてきた今こそ、そのような取組みを「集団」として実践して欲しい、そしてその力は蓄えられてきているのではないかと思います。

Mr.daydreamerとハイナー・ミュラーによる壮絶な「対話」を期待しています。

百瀬 友秀

~・~・~・~・~・~・~

百瀬 友秀/tomohide momose MMST代表、舞台演出家

「現代における演劇の確立」をコンセプトに1998年東京にて活動を開始。舞台作品のみならず、サウンド・パフォーマンスや映像インスタレーションにおいても意欲的に作品を発表。舞台に立つ身体の特権性を常に問い返しながら、独自の身体感覚で現代から古典まで様々なテキストに取り組んでいる。

2011年に福岡に移住、2012年にFUCA(Fukuoka Urban Community of Art)第1期レジデントアーティストとしても活動する。 2014年、釜山と福岡の演劇交流企画HANARO project vol.1に参加。2018年、韓国、台湾、日本を中心とした東アジアの演劇関係者らの交流プロジェクトEast Asia Theater Interaction創設に関わり、日本理事に就任。2023年釜山国際演劇祭「notable works」部門に『Othello』が選抜され、釜山のYONGCHEONJIRAL THEATREにて招聘公演をおこなう。

2025年、韓国、台湾の演劇関係者らとの共同制作『Othello [2.0ver]+[3.0ver]』を台北市Guling Street Avant-Garde TheatreとUmay Theaterにて2劇場同時上演をおこなう。

https://www.mmst.net/

Mr.daydreamer『ハムレット・マシーン』

profile

Mr.daydreamer

“現代悲劇の創作”を目指し、福岡を拠点に活動している演劇ユニット。通称デイドリ。 俳優の身体性(身体言語としての特性)と、インタラクティブな映像表現の調和による空間芸術としての演劇創作を得意としている。 https://mrdaydreamer.site/next/