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特定非営利活動法人アートマネージメントセンター福岡

AMCF MAGAZINE

vol.
732

舞台『モルヒネ』対談(後編)

レポート

12月12日(木)~14日(土)、ぽんプラザホールで開催上演される舞台『モルヒネ』。

第10回九州戯曲賞大賞受賞から約2年。

今回初上演するにあたって、企画や創作についてのあれこれを脚本家の中島栄子さん、演出家の木村佳南子さん、俳優の富田文子さんの3人に語っていただきました。

今回は後編『稽古場での創作のあれこれについて』。

引き続き、読み応えありです。

それでは、どうぞ~。

 

※前編『企画のはじまりから創作のあれこれについて』はこちらからお読みいただけます

 

『戯曲に一番遠いとこまで行った状態で本番を迎えたいっていうのがあるんです。(木村) 

◆この作品、年代によっても見え方が変わりますよね。いろんなものに限りがあるということを感じるようになった年齢の方とそんなことは気にならない年齢の方とでは感じるポイントが絶対に違う。きっとお子さんがいる人もまた見え方が違いますよね。貴美子(主人公)視点で考えがちだけど、見る人によってはお父さんの視点として見る人もいるでしょうし。

中島 稽古に行くと泣いちゃいそうになるから、どれくらい行こうかなとの葛藤です。お母さんと娘が出ているところとか私はやばい。

 

木村 そうだなぁ。全方位。圧倒的に主人公がいっぱい喋っているし感情もたくさん言ってくれるから、概ね大体の人は主人公の目線で見ちゃうだろうけど、キャラクター全方位で見れるようにはしたいなと思っています。一方向から見ると敵対しているように見えちゃうけどただずれているだけとか。

こっちにはこっちのズルさがあるんだみたいなこととか。なんかそういうのって家族間には絶対にあることだから。母親経験もないし父親経験もないけどなんだかこのお父さんに共感してしまう、とか。あの時間中いろんなキャラクターが“そういうこと私にもあるかも”という感じで見てもらえたらいいのかな。どうなんですかね?笑

 

富田 当事者では気づかない。側からみるとわかるってことがあるよね。そこら辺がお客さま目線として見てもらえたら面白いよね。入り込んじゃったり、遠くから見たり、とかね。いろんな見方ができる。

 

木村 あとは、どこまで私が戯曲から離れていけるかっていう。そこで今、もがいています。戯曲に一番遠いとこまで行った状態で本番を迎えたいっていうのがあるんです。 私はあまり自分に演出論とか演劇論とかがないんですよね。何かをつくりたいっていう欲求がないまま20数年続けてきちゃってて。

でも、創作においては結構大胆にバサーっと脚本にメスを入れちゃえるタイプなんですよ。それは脚本が面白くないとかではなくて、ここは無くて、これはこっちにあった方がいいんじゃないか、とか。あと、全く戯曲に書かれていない別方向の、こんなふうに進行していくんじゃないかみたいな、そういうことはしている。じゃあモルヒネにおいての、私の中での文字裏探しをどう進めるか、みたいな、、、。

 

富田 現段階でやっぱり木村さんの演出だな、とは感じてはいます。

 

木村 なんか稽古場も、独特らしいです。

 

富田 独特、、、独特っていうかなんだろう

 

木村 おしゃべりが多い?

 

富田 おしゃべりは多い。でもそれが、いわゆるディスカッションというものではない。

 

中島 そうね。雑談だもんね。

 

木村 あ、ほんと?ディスカッションのつもりだけどね。

 

富田 あのね、ディスカッションってもっと違うのよ。もっと、もうちょっと喧々囂々な感じ。

木村 ケンケンゴウゴウな感じなんだ。

 

富田 演出の木村さんがポツリ呟いたことに対してみんなもポツリつぶやくみたいな進行の仕方をするじゃない?それがまた良い方に、空気感も悪くならず転がってっているって感じ。前に木村さんには言った気がするけど、例えば演出家さんに“これこういう風に変えて”とか“違うの見せて”って言われた時に、役者は変えたつもりだけど全然変わってないよ、って言われちゃうことがある。

木村さんはそういう些細なところをちゃんとキャッチしてくれるんですよね。私はちゃんとこれを変えたんだっていう部分を、こういう風にしてくれたんですね。じゃあこうしましょう。じゃあそれで行きましょう。みたいな返事をしてくれるから、そこら辺の信頼感っていうのがめちゃくちゃある。逆になんか自分が気づかない変化もキャッチされるから、あっヤベっ!みたいなこともあるんですけどね 笑

 

木村 オタクなんですよ。結局のところ、これが。

◆すごく繊細な稽古場ですよね。繊細で丁寧に積み上げていってる。勢いで作っていないから、奇麗に積みあがっていてぶれない。作品にもあっている作り方だなと思います。

富田 私もそう思います。私は何度か非売れさんにも出演させていただいているけど、非売れさんよりも緩やかというか柔らかい空気が流れている現場だな、とも思います。キャストが違うからっていうのもあるんだろうけど。

 

木村 そうですねー。私外現場の方がリラックスしてるんですよ 笑 役割がはっきりしてるじゃないですか。役者さんは役者をしにきているし、作家がいて、演出家がいて、制作がいてっていうみんな自分の持ち分を持ち寄って作っているからそこに安心感がある。だから多分リラックスしている。

 

富田 劇団では制作もしてるしね。下手したら、衣装やったり、小道具やったりとかしちゃうから。

 

木村 普段関わらない人と関わるっていう面白さもありますね。あと、みなさん年上なんですよね。今回私、一番年下なんです。

 

富田 それはあるかもね。それをいうと、キャストの中では私が一番年下です。めちゃくちゃ久しぶりかも。

 

木村 新鮮。

『土佐さんと仲さんはホワっとしてて、峰尾さんと富田さんはシャープな感じ。(中島)』

◆確かに、それなりに積み重ねたものを持っている人たちが集まってますよね。それぞれが試すためのいろんなものを持っている、ある意味熟練した人たちが集まった現場という感じ。

木村 今日やった稽古を踏まえて、次の稽古でいろんなものを持ってきてくれます。もちろんみんなそうなんだけど。歴が長い分、安定感がありますよね。

 

中島 シャープな感じの富田さんとホワホワした感じの仲さん、まとっている雰囲気が違うのがすごくいい感じだなって思ってみています。土佐さんと仲さんはホワっとしてて、峰尾さんと富田さんはシャープな感じ。

 

木村 舞台の居方ってことですよね。舞台の居方、ホワホワはしてないもんね。

富田 ホワホワしろと言われたらしますよ。

 

木村 今までやったことない感じの役じゃない?こういう役をやっている富田さんは見たことないかも。

 

富田 確かに。あんまり求められないよね。強いとかかっこいい女を求められることが多かったりするので。あとは飛び道具的にちょっと変わったことをする役とか。

『普通に人生を歩んでいる人たちの姿をお届けできたらいいのかなと私は思っています。(富田)』

◆今までやったことない感じの役ということですが、そういう役をやることになってどうですか?

富田 やったことないという話でいうと、今言われて気づいたくらいなのでそんなに違和感はないですね。役作りに関しては、どこまで調べてどこまで研究してやりすぎない程度にやるのか、とかいろいろと思うところはあります。 今回の役は、稽古場どう?あらすじ読んだけどきついんじゃない?って言われることが多いんですけど、今のところ全然きつくなくて。芝居の中でその時思っていることとかがちゃんと出てるから消化しちゃってるんですよね。

あんまり隠してないし、持って帰ってない。いつもきつい役をする時ってめちゃくちゃためこんでることが多いんですよ。そのため込んでいるものが芝居に出るみたいなことがあるんだけど、今回はその時出たものを遺憾なくだせるので、今のところ全くきつくない。この先のシーンでどうなるかはわからないけど、毎回とてもすっきりした気持ちでお家に帰れてます。

 

木村 なるほど。よかった。

 

富田 役作りの面では悩んではいます。幼く作りすぎている気もするけど、家族だからこその甘えもあるだろうしな、、と思ったり。塩梅ですよね。大人になる瞬間と子供に戻る瞬間みたいなのが絶対にあると思うんですよ。家族だからこその甘えもあるし、横着さもある。他人には出せないひどさもある。

 

木村 家族物の難しさですよね。役割をやってしまいそうになる。子供という役をやってしまいそうになる、とか。

 

中島 発達さんって年齢×三分の二しか精神的に歳をとれないと言われていて。ちゃんとしたこの年齢の大人ほど、内と外をわけれない人たちだったりするかな。

 

木村 でも、発達さんじゃなくてもできない人はできないし、普段できててもやっぱりなんか怒りとか悲しみとか、そういうので激情にかられたときに大人的な対応はできない、みたいなことがあるから。そういう症例があるというよりかはその時、そのセリフを言っているときの感情がどういったものだったのかっていうところが大事かな。多分そのセリフが持っている熱量のままやっちゃうと受け止めきれない人たちが出てくるんじゃないかな。

みんなそういう面はあるのに、自分のことは棚に上げて、“もうちょっと頑張れよ”とか“なんだこいつは”とか人は思っちゃったりするから。やっぱりそれって嫌じゃないですか。めちゃくちゃ愛嬌あるキャラクター達だから。そういうところでのバランスと調整をね、、、まー、難しいけど。

 

富田 生活の一部としてそれを表現するから、あえて深く深く重く重くしようともしていないということだと思っていて、普通に人生を歩んでいる人たちの姿をお届けできたらいいのかなと私は思っています。

 

木村 現実だから。

 

中島 現実に起きている人、私がいますしね。

 

富田 お葬式のシーンを描くときに葬式だからと言って暗くしようとする人いるけれど、お葬式って意外となんか親戚が集まってバカ騒ぎとかするじゃないですか。そういう楽しさとかもある。やっぱり、生活の一部だよね、と思う。

 

木村 現実感をもってみてもらって、ままならんことってあるよなーって。

 

中島 解決するわけじゃないから笑

 

木村 作品自体も解決しないし、解決はしないけど生活は続いていくっていう。

 

中島 そうそう。うちも相変わらず父がやらかしているし。ラストのシーンは別に暗い終わり方じゃないんですよね。何の解決もしていないけど、本人ちょっと上を向いたよっていう何とも言えない明るさというか、ちょっと解放される感じが汲み取ってもらえる人でないと演出は厳しいなっていうのがあったんですけど、木村さんと話をしたときに、別に救いがないわけじゃないのにね、って言ってもらえたのがすごいよかったーって。

 

木村 そうですね。救いがないわけじゃないけど、あれはあの一瞬の救いなんですよね。戯曲のすごい面白いところですよね。多分翌日にはまた怒ってんだろうなこの人って笑 戯曲は終わるんだけど貴実子の明日みたいなことを想像できるっていうのはいい本だなぁと。そういった意味では現実感がある人たちだし。家族物だと思ってみにきたらそうじゃなかった、みたいなね 笑

 

富田 人から説明を求められるとき私、めちゃくちゃ困ってて。なんて説明したらいいですか?

 

木村 家族のすったもんだ

 

中島 私、友達にうちの愚痴をいろいろ言ってたときに、浦安鉄筋家族みたいな家だよねって言われて。あんなにテケテケしてるの?って。

 

木村 あれはすごく強調して描いてる漫画ですけどね。

◆あと本番まで1ヶ月くらいですね。作品創作の途中だからいろいろと試行錯誤あると思いますが、お客様も楽しみにしてくださっていると思うし、逆に私たちはお客さんの反応も楽しみですね。

富田 笑いながら泣いてくれたら嬉しいかもなぁ。

 

木村 みんなどんな顔して帰るんだろう。

 

舞台公演は12月12日(木)~14日(土)の3日間。3回公演です。

戯曲も公開されていますので、事前に戯曲を読んで観劇されるもよし、

読まないで観劇されるもよし、それぞれお楽しみいただけたらと思います。

お見逃しなく!!


◆『モルヒネ』戯曲はこちらからご覧いただけます →https://playtextdigitalarchive.com/author/detail/473

morphine Plan #01 『モルヒネ』

脚本:中島栄子(アクションチーム jーONE)

演出:木村佳南子(非・売れ線系ビーナス)

母が重病になった。

ストレスで発症する病気だそうだ。

ストレスの原因は十中八九、発達障害の父だろう。

貴実子はそう思っている。

いよいよ母の死が近づいてきた。

そんな母と葬式の準備をする。

守られたかった人間が守られないままに、それでも生きていく姿をユーモアを交え描いた第10回九州戯曲賞大賞作品。ついに上演。

公演詳細・ご予約はこちらから▶https://note.com/morphine_plan/n/nb52f351692ce