
あやふやなものをあやふやなまま、いなくなったものをいないままに、切り取られた輪郭の再構築を試みる場として2020年に田崎小春が立ち上げた創作ユニット「melomys」。
8月に横浜で上演し好評を博した作品「ドリームタイム」が、博多区御供所町にあるマノマにて11月2日(日)、3日(月・祝)の2日間上演されます。
今回は田崎さんと繋がりのある2人を交えて、田崎小春という”人”について、”創作”について、「ドリームタイム」という”作品”について、ゆるやかに語っていただきました。
ボリューム満点、読み応えあり、の内容になっています。
早速、どうぞ~♪
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◆田崎小春(melomys主催/俳優)
◆横山祐香里(万能グローブ ガラパゴスダイナモス/俳優)
◆橋本理沙(制作)

『その時にわたし初めて小春を観て。こんな子おるんやーって思ったのを覚えてる。(理沙)』
橋本理沙(以下、理沙) この3人はガラパ(万能グローブ ガラパゴスダイナモス)で出会っているんだけど、私と祐香里ちゃんが元々劇団に所属していて、途中から小春が入団してきたんだったよね。
田崎小春(以下、小春) 確か入団前にガラ博っていうガラパのイベントで(劇団ジグザグバイト代表の)到生さんの作品に出演してて。(ガラパ主宰の)椎木さんがその時に私のことを知って『いいねっ』て言ってくれた時に、祐香里さんが『っていうか私小春このこともっと先に知ってたし。いいと思ってたし』みたいな話をしてたのを覚えてる笑
理沙 それって何年くらい前だろう?もうだいぶ前だよね。
小春 まだ20歳くらいじゃないかなぁ。13〜4年前くらい?

理沙 私が小春を知ったのはやっぱり入団前で。リーディングに出てた。
小春 (演玩カミシモ)山下キスコさんのやつかな。
理沙 その時にわたし初めて小春を観て。こんな子おるんやーって思ったのを覚えてる。まだ大学生だったよね。その頃から演劇やってたの?
小春 大学で演劇部に入って最初の頃にぽんプラザで手嶋さんの芝居を観て。エンタメっていうよりは淡々と進んでいく、みたいな作品で、その時の手嶋さんが好きで。話をする機会があった時に、私すごく好きなんですよーみたいな話をしたら、大学の公演を観に来てくれてそこから客演が広がったりとかしたかな。あとは、到生さん。大学は違ったんだけど合同演劇とかで、私は出たことないんだけど同じ演劇部の他の子が出て到生さんが演出みたいなことがあったり。その繋がりで公演を観に来てくれたり、というのがあったのかな、多分。それで、大学の2年生の頃からムニムニっていう北九州の枝光アイアンシアターでやってたやつに繋がって。
理沙 ムニムニって、懐かしいね!
小春 そう。熊本の「不思議少年」と北九州の「ブルーエゴナク」と、大分の「劇団背油こってり」と福岡の「WETBLANKET(現 劇団ジグザグバイト)」っていう、近い世代が集まってやる企画があって。それが大学2年か3年の時で、それに参加して不思議少年とかエゴナクと出会ったりして。
理沙 今考えると、その世代って色々やってたよね。そして、今小春が創っている作品や芝居がWETBLANKETから始まっているっていうのは驚きかも。
小春 そう、殺陣やってた。
理沙 そうだよね、殺陣やってたね。今となってはなんか新鮮。私、劇団というか小春の思い出で忘れられないのがあって。なんの公演だったか覚えてないんだけど、ぽんプラザホールで、あの、遅刻のやつ。
横山祐香里(以下、祐香里) あー、あの歌ったやつ?
理沙 そう、歌ったやつ。あれは、やばいよね笑
祐香里 私、伝聞でしか記憶がないってことは自分の記憶を消しているのか、実際その場にいなかったのか、、、小春さん、真相はどうですか?
小春 なんか覚えてる。遅刻だ!!ってなって、電車に乗ってて。もう遅刻ってことが分かりきってるし、電車の中では急ぎようもないからどうしたらいいのかなと思った時に、なんか歌を考えて。なんかそれが自分が楽しくなっちゃったのかな。
理沙 確か前の日に打ち上げとかやってて、で翌日朝からバラシみたいなスケジュールの時だった気がする。
祐香里 あ、本番じゃないのか。
理沙 確かそう。みんな寝不足のギリギリの状態の中、朝から集まってバラシしてたら小春が遅れてきて。エレベーターの扉が開いたら、遅刻しました!遅刻の歌を唄います!って言って振り付きで歌い出した。最後「ほんとにごめんなさいっ!」って謝って終わるんだけど、それまでみんなイライラしてたのに、それ見たらその場にいた人みんな笑い出して、、、とかだったと思う。その時、小春ほんとにすごいなって思ったなー。普通に面白かったし。
祐香里 遅刻して歌うやつはすごいでしょ笑 私やっぱりその場にいなかったかも。伝聞で聞いて、すげえなって思ったんだろうな。で、その後誰かが遅刻した時とかにその話が出たり、それこそ小春がそういう時は遅刻の歌唄え、みたいな事言ってたり。

理沙 すごいよね〜。私正直、昔の記憶がそんなにあるわけではないんだけど、なんかそれだけはめっちゃ覚えてる。私の中での小春の魅力ってそういうとこで、絶対ないやろ!!っていうところに空気を持っていくみたいな、そういう力があるよね。
祐香里 覆せる女やな。私がめっちゃ覚えてるのは一人暮らししてた家に小春が遊びに来た時。勝手に冷蔵庫開けて飲み物とって飲んだりしてて、それがすっごい嬉しかったんよ。あーなんか私こういう友達欲しかったんよなーって笑
理沙 今もそういうとこ変わらんよね。
小春 変わってないと思う。なんか、イライラされることもある笑
『言わなくていいことを言うことと、正直でいることはイコールじゃない。(小春)』
祐香里 小春って、場に流されないのが無茶苦茶いいよね。違和感に敏感。居たい場所にいればいいじゃんっていうのがずっとある。
理沙 心地いい場所に居続けれるっていうのはあるね。
祐香里 昔現場で、私よりも先輩の女優さんが楽屋にいっぱい居て、自分はこの空間にどういうふうに居たらいいかな、どういう話をしたらいいかな、とか気を遣ったり縮こまっちゃったりしてたんだけど、小春ってそういう時楽屋にいないもんね。スーって出て行っちゃって。いいんだそれで、って。
小春 楽屋、居ないね笑

祐香里 今だったら自分もそれができるかもしれないけど、当時は出来なかった。小春は楽屋の外で話ができる人と楽しく話をしてるし、それは別に全然いいことで。そういう居心地の悪さとかに敏感。なんでこの場所にいないといけないんだろうっていう場に。
小春 最近ちょっと、正直でいることを大事にしようと思い直しているから、よりなんかそうなってるかも笑
祐香里 そういえば、(melomys『present』の創作で)共同脚本やってる時、小春、東京に出て考え直した、みたいなことを言ってたんだよね。お互いの話をして創るみたいな流れで、話してたら小春が『東京に出て言いたいことを言ったら、場がよくない方向に行ったり無駄に誰かの反感を買ったり、自分はそういうつもりじゃないのに、みたいなことがあったからちょっと考え直してる』みたいなことを言ってたの、当時。
小春 へぇー。
祐香里 呑んで、打ち上げとかでも思ったことをすぐ喋るみたいなことはあんまり良くないなと思うようになったって当時は言ってて。一周まわって正直になろうと思ったんじゃない?
小春 ていうか、わざわざ言わなくていいことがあるっていうのは学んで。だけど、なんか、それこそ居たくないところ、自分がすごくストレスが溜まるところには居なくていい、とかは改めて思ってるかも。あと、傷つくなぁって感じることを言われたことがあって、言われた時にどんなところでそういうふうに思うの?っていうのを真っ直ぐ聴けたらよかったなって思ったりもして。そういう自分が違和感があるってことに、もうちょっと一個一個ちゃんとスルーせずに、相手を攻撃するわけではなく立ち止まっていく、みたいな。言わなくていいことを言うことと、正直でいることはイコールじゃないっていうか。だからもうちょっと正直でいようって思った。まあ、ニコニコしてやり過ごすことも、、、あるか。
祐香里 あるの?
小春 うーん、ある。まあでもなんか、こんなことでいちいちイライラしてもしょうがないかみたいな感じかな。
祐香里 私いまだに小春が言ってくれたことで覚えていることがあって。もう祐香里さんは自分から不幸になりに行かなくていいですよって言われて目が覚めたよね笑 覚えてる?
小春 覚えてない笑
祐香里 それを未だにいろんな節で思い出す。いろんな人がいてさ、この人が言ってくれたこの言葉を覚えてる、とか色々あるけどさ、小春はその言葉だな。
小春 なんの時に言ってたんだろうそれ。
祐香里 電車でね、小春が東京に行く前かな。私がひとりもがき苦しんでいたらそう言われて。
小春 覚えてないもんだな〜。
祐香里 ネガティブに捉えちゃったりとかしたときに思い出すよね。なんか、私幸せとかになれない女だったからさ。幸せなくせに、幸せな女である自分を認識できないタイプの人間だったから。いまだにふと思い出すんだよね、私幸せーってやっていいんだって笑 やっぱり心地いい場所にいるという大事さよ。
小春 でも、なんか満たされなさみたいなものって原動力になったりもする気がして、それはそれでいいかもって思ったりするかも。
祐香里 それを原動力にしようとしすぎる節が当時はあって、そうじゃないと作品は作れないし。なんか満たされなさとか足りなさとか。
小春 最近平田オリザさんの地図を作る旅って本を読んでたんだけど、そこでオリザさんが自転車の世界一周旅行をやってた時に17歳の自分が親に宛てた手紙が載ってて。自分は飢えていることに飢えているみたいなくだりがあったなというのを思い出した。乾き切っている状態にあるということはある意味エネルギーになるよね。
『演劇って、いくつも想像力が重なって普遍的になるじゃない?その瞬間が好きだなー。(祐香里)』
祐香里 自分を見せたくて一人芝居してるんじゃないっていうの、なんかすごい面白いことをしようとしている感じだなと思う。私、『わが町』の戯曲(ソーントン・ワイルダーの3幕物の戯曲)が好きなんだけど、後書きのページにも書いてある『想起させる』みたいなことがすごく好きで。この作品は抽象舞台で、外国の作品だから登場人物がエミリーとか、全然日本人じゃない。その舞台を観た時に、これがやりたくて私は演劇をやってるんだなーって思える瞬間があって。想起させるというか、全然違う人の人生を見てるんだけどすごく自分の中で思うところとか振り返るところがあって、それがすごく胸にきたんだよね。
演劇って、誰かの物語を生きている俳優が演じていて、小春も言ってたみたいに層が重なっている。この人は役者の誰々という人で、この物語はこういう物語で、ここは普通のなにもない舞台なんだけど椅子とテーブルがあって、ここはキッチンで、みたいな。いくつも想像力が重なって普遍的になるじゃない?その瞬間が好きだなーって思って。
小春の話を聞きながら、そういうことが巻き起こる舞台っていいよなって思った。小春が「自分を使っているけど自分を見せたいわけじゃない」って言ってることとか、舞台上に椅子があって、それがクラゲになって動き出して、みたいなこと(「ドリームタイム」ワイキキスタジオ公演)とか。ここは別に水の中じゃないけどクラゲが居て、それをわかっているのに信じてたりするわけじゃん。そこが真実に近かったりするじゃん、感覚として。それが面白いなって思ってるから。そこをどんどん突き詰めてる小春はやっぱり面白いなーって思ってる。
小春 なんか、現実とフィクションみたいなのってわかりやすいから区別したり、そう言われたりするけど、そこの差って実はあんまりないんじゃないかなって思う。脳が認識してる“そこで起こってないのに自分の内ではすごくリアルに起きているってこと”の方がむしろ真実に近いものがあったりすることだってあるし。パフォーマンスの時間ていうか演劇の時間の中で、むしろフィクションが現実より肌にとってすごく現実味があるってことがある。だからそんなに区別したりしなくてもいいんじゃないかなって思うし、そんなに現実の方に権力があるわけでもないような気がする。
自分がどこまでやれるかっていうのはちょっとわかんないんだけど、でもこれについては未熟でいいって気持ちが年々増してるかも。自分の方が成長してるかどうかなんてわかんないんだけど、どうせ何か足りてないというか、後に振り返った時に、なんかもっとこうもできた気がするとか思うだろうし。だからとにかくその時にできることを精一杯やって、今これだと思ったんですっていうものをずっと続けていくっていうか。

理沙 演劇って、今の自分が思うことを出した作品を、一歩先に進んだ自分がまた演じることもできる。作った時とはまた違う前に進んだ自分が演じることで作品が変わるみたいなことってきっとあるよね。
小春 ある。
『『ドリームタイム』は、自分にとってのある意味立ち返る場所(小春)』
理沙 祐香里ちゃんと一緒に創った作品『present』は割と再演を割と積み重ねてたと思うけど、今回の作品は、8月に横浜のワイキキスタジオで公演してから別の場所でやるのは初めて?
小春 『ドリームタイム』っていうタイトルでは以前東京でもやってて、その時は私は出ていなくて4人の俳優に出てもらってた。それで、それを私が演じるということで作り変えて、2022年に当時大名にあったSRギャラリーでやった。で、今回おんなじタイトルでまたやるんだけど、結構、中身は違います。なんかタイトル一緒だからすごくアーカイブしにくいんだけど笑
祐香里 え、じゃあ前の公演観た人は違うものを見るつもりできていいってこと?
小春 もう完全に違う。全然。
祐香里 私、もう一回やるんだろうなと思ってた!
小春 90%は違う笑
理沙 『ドリームタイム』は、小春が今、感じていること考えていることの質感がそのまま作品になっている。当時の小春の作品がドリームタイムとしてあったけど、今回はまた違う今の小春のドリームタイムなんだね。
小春 うん。
祐香里 ずっと『ドリームタイム』にしたらいいやん。めっちゃ面白いやんそれ。次来たらまた違う『ドリームタイム』笑
小春 なんかこれをやる時に、『ドリームタイム』ってタイトルでやったら流石に同じタイトルでどうなのかなみたいな感じで相談したら、いやもうずっと『ドリームタイム』でいいんじゃない?って言われて笑
祐香里 ずっと『ドリームタイム』でいいよ。
小春 melomysの作品の中で、この『ドリームタイム』っていう企画の時はずっと『ドリームタイム』で、でも中身はどんどんどんどん変わっていってるっていう。
祐香里 めっちゃいいと思う。
小春 そういうふうに変わっていく一つとして、『ドリームタイム』っていうある意味こう運動みたいな。この作品の時はこのタイトルで。
祐香里 一つとして同じ時はないんだぞっていう演劇笑 みんながわかってったらいいよね。小春の『ドリームタイム』は観にいったら違うやつって。
小春 そうね。だんだんそうなってくれたら。そうなるくらいやれたら。これからどうなっていくかわかんないけど『ドリームタイム』は、作品自体はちょっとずつ変わっていきながら、それこそなんか正直に居れなくなったりとか、今すごく気を遣ってるな、本当はこういうふうに振る舞いたいわけじゃないのに、とかそういう時に、自分にとってのある意味立ち返る場所。なんかちょっと皮かぶっている自分も気持ち悪いみたいなところから戻ってくる場所としてもすごく大事な作品というか、自分にとってのシンプルなところに立ち返るために今回も作ってるところがあるかな。
自分にとっても大事な運動っていうか活動の一つとして続けていけたらいいなって思ってる。あ、そうだったそうだった、みたいな感じで。
理沙 小春の原点に立ち返る場、自分にシンプルに素直に向き合って創作する場、なんだね。今の小春が届ける『ドリームタイム』、楽しみです。
小春 会場であるマノマの大谷さんがDJをされているんだけど、今回『ドリームタイム』の音をDJでかけてくれることになって。イメージする曲を集めてその中からシーンに合わせて音をしてくれるみたい。
福岡のマノマという場所で、いま、ここ、わたし、いつ、どこ、だれ、現実か夢か、静かに、力強く、血の流れる作品に。是非観に来てください。
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melomys 『ドリームタイム』
作 ・構成・演出: 田崎小春・melomys/出演 : 田崎小春
2019年、ネズミの一種であるブランブル・ケイ・メロミスは人間の活動によって絶滅した。らしい。
私は1991年に産まれ今年で34年。らしい。
人間として今ここに生きている。
6畳のアパートの一室から感じ、考え、想う。今現在、過去の記憶、夢の境界は曖昧に、私、は旅をする。
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◆公演日程(上演時間 約60分)
2025年11月2日(日)19:30
3日(月・祝)13:00/17:00
◆会場
マノマ(福岡市博多区御供所町5−28)
https://maps.app.goo.gl/RvHMAGWsBGfckFE36
◆料金
一般 2,500円
障がい者・介助者・高校生以下 1,000円 *要証明書
◆チケット予約
googleフォーム x.gd/B2C66
◆melomysサイト▷https://melomys1113.wixsite.com/melomys
